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神戸地方裁判所 昭和59年(行ウ)6号 判決 1985年12月02日

原告

大竹貿易株式会社

右代表者代表取締役

大竹成正

右訴訟代理人弁護士

田宮敏元

香山仙太郎

被告

神戸税務署長

小池喜芳

右指定代理人

竹中邦夫

外五名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一争いのない事実<省略>

二そこで昭和五二年三月一日から昭和五七年二月末日までの間、大竹成正が所得税法二条一項三号の「居住者」に該当する者であつたかどうかにつき検討する。

1  所得税法二条一項三号は、「居住者」とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいうと規定している。ところで、同法規が、民法におけるのと同一の用語を使用している場合に、所得税法が特に明文をもつてあるにはその趣旨から民法と異なる意義をもつて使用していると解すべき特段の事由がある場合を除き、民法上使用されているのと同一の意義を有する概念として使用するものと解するのが相当である。したがつて、右の所得税法の規定における「住所」の意義についても、右と同様であつて、所得税法の明文またはその解釈上、民法二一条の定める住所の意義、即ち各人の生活の本拠と異る意義に解すべき根拠をみいだし難いから、所得税法の解釈においても、住所とは各人の生活の本拠をいうものといわなければならない。原告は、二重課税を回避し非居住者の申告の困難を救うためには、当該個人が継続して一年以上居住することを所得税法上の住所の要件として不可欠のものとしなければならないと主張するが、たやすく首肯することができない。そして、所得税法の解釈適用上当該個人の生活の本拠がいずれの土地にあると認めるべきかは、租税法は多数人を相手方として課税を行なう関係上、便宜、客観的な表象に着目して画一的に規律せざるを得ないところからして、客観的な事実、即ち住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か、資産の所在等に基づき判定するのが相当である。

そして、国の内外にわたつて居住地が移動する者の住所が国内にあるかどうかの判定にあたつては、被告主張のとおり、所得税法施行令一四条、一五条において推定規定が定められているものと解される。

2  そこで、以上の見地から本件を見るのに、大竹成正が国内に住所を有する者といえるかについて検討するに、<証拠>を総合すると以下の事実を認めることができ<る。>

(一)  原告会社は、肩書地に本店が所在し、国内外に多くの関連企業を有し、資本金四〇〇〇万円、従業員約六五名、テレビ・ステレオ等の輸出貿易業を営むもので、右関連企業の製造する右電気製品の全量を世界各地に輸出しており、右事業の性質上、原告会社代表取締役である大竹成正は、日本国外に滞在することが多く、大竹成正の国内外の滞在日数は、被告主張2(五)の表記載のとおり(その行先等の内容は別表2ないし6記載のとおりである。)であり、また同人の出入国の状況は別表7記載のとおりである。

そして、同表によると、本件係争期間中の大竹成正の国内滞在日数と国外滞在日数とを比較した場合、国内滞在日数の方が、昭和五二年には一二七日、昭和五三年には四九日、昭和五四年には五三日、昭和五五年には四六日、昭和五六年には一三日とそれぞれ多く、しかも国外滞在の場合にも多くの場所に短期間の滞在をしており、とりわけ原告が住所地と主張する香港には年間精々一〇日程度しか滞在していない。次に、国内滞在期間中における滞在場所をみると、東京、武生市等に年間四〇日前後滞在しているが、その余の滞在日数における滞在場所が明記されていないことがうかがえる。

(二)  大竹成正は、日本国籍を有し、芦屋市朝日ケ丘町二四二番地に本籍を有し、同町二一番一二号には宅地四九五平方メートル及び三階建て鉄筋コンクリート造の住宅(延べ床面積二二二・七四平方メートル)を所有し、昭和三七年ころから現在に至るまで同人の妻大竹初枝及び長女大竹まやを居住させている。なお、大竹成正は三和銀行芦屋支店に預金口座を設け、右土地と家屋の固定資産税を同預金口座より振替納税し、さらに右家屋のガス、電気、水道の使用料も昭和五六年一月までは同預金口座より振替支払われた。

(三)  大竹成正の住民基本台帳には、昭和四七年一一月五日までは芦屋市朝日ケ丘二一番一二号に、その後は福井市毛矢二丁目四番三号新橋コーポに転入、さらにその後香港に転出予定として昭和五一年八月六日に転出届出がなされた旨記載されている。

しかし、同人の妻大竹初枝、長男不二男(昭和五四年一月二一日出国)及び長女まや(いずれも日本国籍)は、いずれも芦屋市朝日ケ丘町二一番一二号に住民登録をしている。

(四)  大竹成正は、国内外に所在する前記多数の関連企業体を統括し神戸市に本店を構える原告会社の代表取締役という中枢的地位にあり、また武生市に所在する前記関連企業二社の取締役等の地位にあつて、同人は、原告会社及びその関連企業のオリオングループの人事、財政方針の最高決定者である。原告会社は大竹成正の地位と業務遂行の必要性などからその勤務地を香港とせず(なお原告会社が海外に支店及び営業所を有する確証はない)に本店所在地と定め、原告会社又はその関連企業のいずれのためにする活動であるかを問わず同人の国内外の右本店以外の場所における勤務を原告会社のための出張扱いとして右出張費用の全部を支給しており(このことは大竹成正の活動が主として原告会社のためであることを窺わせる)、その発地・着地として大阪又は神戸を選択している(香港を中心とした出張扱いはしていない)が、国外出張時には大竹成正は殆んどの場合大阪空港を利用している。

3  そこで、右認定事実に基づき本件争点について検討するに、大竹成正は芦屋市朝日ケ丘町二一番一二号に土地・建物(居宅)・預金その他諸財産を所有し、妻子は同人所有の右住宅に長年居住し同所を生活の本拠としているところ、夫婦は特段の事情のない限り同居しているものと推認できること、大竹成正の右自宅は原告会社本店及び大阪空港にも近く平素の通勤及び国外出張の際には便利であること、ところで、我が国が技術開発力を有するところから国際競争力のある商品を国内及び海外の安価な労働力を利用して生産し米国及び欧州諸国に輸出販売して利潤を得る企業グループがあることは巷間よく見られるところであるが、前示各認定事実によると前記オリオングループもその一つであつてその海外関連企業は同グループの支店ないしは営業所類似の販売拠点ないしは生産拠点にすぎないものと推認できるところ、このようなオリオングループの中心が原告会社であり、大竹成正が同グループの総帥として実権をは握していることからすると、同人の職業は、永年にわたり国内に居住することを必要とするものということができることなどからすると、所得税法施行令一四条一項各号の住所推定規定によるまでもなく、大竹成正は芦屋市朝日ケ丘町二一番一二号所在の自宅を生活の本拠としていたものであり、所得税法二条一項三号の関係では、同人は同所に住所を有するものと解するのが相当である。

もつとも、右判断に対し、原告は、大竹成正の住所は香港に所在する旨主張し、なるほど、成立に争いのない甲第七号証の一(証明書)、同二(その訳文)及び第八号証(在留証明書)には、大竹成正は、昭和五一年八月から昭和五九年四月まで、香港ケインロード一一〇―一一八オンフンビルD―二二号に在留していた旨の記載があり、また弁護の全趣旨により成立の認められる甲第九号証の一、二によると、大竹成正は右D―二二号及びフラットルーフを昭和五五年一一月一九日から所有していることが認められ、また、<証拠>によつて認められる、香港政庁移民局発行の商務査証の有効期間が昭和六〇年六月二五日に昭和六三年六月一四日まで延長が認められたことにつき、原告は、同査証の発行が厳しく制限され、有効期間も通常半年であるのに三年もの有効期間延長が認められたことは、香港政庁自身が大竹成正の香港における企業活動の実績を認めたもので、これは、大竹成正が香港に居住の意思をもち現実に居住していることの証左であると強く主張する。

しかしながら、<証拠>によると、在香港日本国総領事館総領事が大竹成正に発行した前記甲第八号証の在留証明書は、同人の代理申請人により、大竹成正作成の香港居住証明願、同人の旅券の香港出入国の記載のある頁の写し及び同人が取締役に就任しているOTC International(HK)Ltd.作成の在職証明書に基づき、「現に生活している(いた)」点については実地確認をしないまま発行されていることが認められ、さらに、前記甲第七号証の一の証明書も、どのような客観的事実に基づいて同書記載の証明がされているのか定かではないので、これらは直ちに措信できない。また、大竹成正が、前記家屋を所有すること、商務査証有効期間延長が、仮に、原告主張のとおり香港政庁が大竹成正の企業活動の実績を認めた結果であつたとしても、大竹成正の香港での現実の滞在日数は、前記のとおり精々年間一〇日程度にすぎず、原告会社においても大竹成正は業務遂行上香港に住所を有すると主張しつつも同人の香港滞在を一時的な出張として扱つていること、その他先に説示したところに照らすと、原告主張の右事実によつても、大竹成正の住所が香港に所在すると解することはできない。

4  そうすると、大竹成正の住所は国内にあり、したがつて同人は、所得税法二条一項三号にいう「居住者」に該当する。<以下、省略>

(裁判長裁判官野田殷稔 裁判官小林一好 裁判官横山光雄)

別表1 納税告知処分等の明細表<省略>

別表2〜6(大竹成正の国内外の滞在日数表)<省略>

別表7 大竹成正の出入国状況表

出国

入国

出国

入国

出国

入国

年月日

空港

年月日

空港

年月日

空港

年月日

空港

年月日

空港

年月日

空港

昭52.1.12

羽田

昭52.1.22

羽田

昭53.6.7

大阪

昭53.6.18

大阪

昭55.5.23

大阪

昭55.5.30

大阪

.2.4

大阪

.2.10

大阪

.6.22

大阪

.6.25

大阪

.6.11

成田

.7.1

大阪

.3.10

大阪

.3.16

大阪

.7.1

大阪

.7.11

大阪

.7.11

大阪

.7.19

大阪

.3.24

羽田

.4.2

羽田

.7.19

大阪

.8.1

大阪

.8.9

大阪

.9.9

大阪

.4.11

大阪

.4.13

大阪

.8.12

大阪

.8.19

大阪

.10.4

大阪

.10.10

大阪

.4.27

大阪

.5.9

大阪

.8.26

大阪

.9.9

大阪

.11.5

大阪

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大阪

.6.2

大阪

.6.19

羽田

.9.22

大阪

.10.1

大阪

.11.22

大阪

.12.13

大阪

.6.29

大阪

.7.6

大阪

.10.22

大阪

.10.28

大阪

56.1.5

成田

56.1.14

大阪

.8.19

羽田

.9.9

羽田

.12.1

大阪

.12.16

大阪

.1.23

大阪

.2.3

大阪

.10.3

大阪

.10.7

大阪

54.1.2

大阪

54.1.11

大阪

.2.12

大阪

.2.19

大阪

.10.17

大阪

.10.22

大阪

.1.29

大阪

.2.10

大阪

.3.3

大阪

.3.22

大阪

.11.2

大阪

.11.9

大阪

.2.28

大阪

.3.15

大阪

.4.10

大阪

.4.18

大阪

.11.29

大阪

.12.5

大阪

.3.27

大阪

.4.13

大阪

.5.7

大阪

.5.16

大阪

.12.18

大阪

.12.22

大阪

.4.29

大阪

.5.10

大阪

.5.27

成田

.6.16

大阪

.12.26

大阪

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大阪

.5.28

成田

.6.13

大阪

.6.26

大阪

.7.5

大阪

53.1.3

羽田

53.1.10

羽田

.6.22

大阪

.7.6

大阪

.7.28

大阪

.8.8

大阪

.1.18

大阪

.1.24

大阪

.7.27

大阪

.8.3

大阪

.8.13

大阪

.9.20

大阪

.1.29

大阪

.2.2

大阪

.8.14

大阪

.9.16

大阪

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大阪

.11.5

大阪

.2.9

大阪

.2.21

大阪

.10.10

大阪

.10.21

大阪

.11.13

大阪

.11.28

大阪

.3.3

大阪

.3.12

羽田

.11.21

大阪

.12.2

大阪

.12.9

大阪

.12.15

大阪

.3.16

大阪

.3.22

大阪

55.1.2

成田

55.1.12

大阪

57.1.3

大阪

57.1.15

大阪

.3.30

大阪

.4.5

大阪

.2.8

大阪

.2.24

大阪

.1.28

大阪

.4.20

大阪

.4.26

大阪

.3.10

大阪

.3.14

大阪

.5.4

大阪

.5.11

大阪

.3.26

大阪

.4.2

大阪

.5.27

大阪

.6.3

大阪

.4.18

大阪

.5.11

大阪

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